家を建てようと思ったのは、娘が大きくなってきた頃だった。
娘には重い障がいがある。
小さい頃は抱きかかえて移動できたけれど、成長するにつれて、それも難しくなった。
車椅子での移動が増え、家の中のちょっとした段差や狭さが、少しずつ大きな問題になっていった。
それまで住んでいたのは社宅だった。
家は、落ち着く場所というより、毎日の介護をする場所だった。

朝、昼、晩。
娘が食べやすいように、食事をペースト状にしたり、細かくちぎったりする。それをスプーンで、一口ずつ食べさせる。
とにかく、時間がかかった。
食事が終われば、薬を飲ませる。着替えをする。おむつを替える。
それが毎日のことだった。
家の中も、いつもきれいに片付いていたわけではない。
むしろ、雑然としていたと思う。
介護に必要なものがあり、子どものものがあり、生活のものがある。
「もっときれいに暮らしたい」と思う余裕さえ、あまりなかった。
だから家を建てようと思った時、私たちが欲しかったのは、単に「介護しやすい家」だけではなかった。
家族みんなが、少しでも心地よく暮らせる家。
介護のためだけではなく、そこで暮らす私たち自身も楽しめる家。
そんな家をつくりたいと思うようになった。
マンションか、注文住宅か
最初に考えたのは、マンションだった。
段差が少なく、エレベーターがある。
車椅子で生活することを考えれば、マンションはとても合理的に思えた。
管理も楽だし、家の中の移動もシンプルだ。
正直、介護のことだけを考えるなら、マンションでよかったのかもしれない。
でも、いろいろ見ているうちに、少しずつ気持ちが変わっていった。
せっかく家を持つのなら、介護しやすいだけの家にはしたくない。
妻がやりたいことも、私がやりたいことも、入れたい。
妻は、キッチンにこだわりたかった。
薪ストーブも欲しいと言った。
私は、昔から車が好きだった。
できることなら、リビングから好きな車を眺めたい。
そして二人とも、吹き抜けのある開放的な家に惹かれていた。
介護のために必要なものと、私たちが暮らしを楽しむために欲しいもの。
その両方を入れようとすると、マンションでは難しかった。
だったら、自分たちでつくってみよう。
注文住宅に気持ちが傾いていった。
ただ、この時はまだ知らなかった。
家を建てると決めてから、本当に建つまでに、3年もかかるとは。
この時は、まだ知らなかった。
住宅展示場を何十件も回り、
土地を探し、
「この人にお願いしたい」と思える人に出会うまで、
ずいぶん遠回りすることになる。
でも、その3年間も、今振り返れば家づくりの一部だったと思う。

