家を建てるとき、吹き抜けは絶対につくりたいと思っていた。
開放感があるから。
家が広く見えるから。
もちろん、そんな理由もあった。
でも、一番の理由は娘だった。
娘は、自分で寝返りをすることができない。
車椅子に乗っていない時間は、仰向けで過ごすことが多かった。

だから家を考えているとき、ふと思った。
この子は、この家で何を見るんだろう。
普通の家なら、仰向けになった視線の先にあるのは天井だ。
だったら、その先に空があったらいい。

青い空が見える。
雲が流れていく。
鳥が飛ぶ。
時には、飛行機が横切っていく。
夜になれば、月や星も見える。
娘がそれをどこまで理解しているのかは、正直わからない。
それでも、天井だけを見ているより、空や光の変化を感じられる場所にしてあげたかった。
それが、わが家に吹き抜けをつくった大きな理由だった。
普通とは逆の家をつくった。
吹き抜けには、もうひとつ大切な役割があった。
光だ。
家を建てるなら、普通は南側をできるだけ空ける。
少しでも南からの日差しを取り込みたいからだ。
でも、わが家は逆にした。
南側は隣家との距離をかなり詰めて建物を配置し、北側を大きく空けた。
そこを中庭にした。
当然、問題になるのが光だった。
北側に中庭をつくりながら、家の中にはできるだけ光を入れたい。
そのために重要だったのが、吹き抜けだった。
南側にも大きな窓。
北側にも大きな窓。
南から入った光を吹き抜けに通して、北側まで届ける。
上から入った光は、北側の高い壁にも反射する。
理屈を聞けばわかる。
でも、本当にそんなにうまくいくのか。
正直、ものすごく不安だった。
30社近く見て、この提案をしたのは1社だけだった。
家づくりを始めてから約3年。
住宅展示場を回り、大手から中堅まで、さまざまな住宅メーカーと話をした。
やり取りした会社は、30社近くになると思う。
ほとんどの会社が考えたのは、やはり南側だった。
南をできるだけ空けて、そこから光を取り込む。
家づくりとしては、ごく自然な考え方だと思う。
ところが、最終的にお願いすることになる会社だけが違った。
「北側を空けて、中庭にしましょう。」
30社近く話をして、この提案をしたのは、この1社だけだった。
しかも、南側は隣家との距離をかなり詰めて建てるという。
本当に大丈夫なのか。
せっかく建てた家が暗かったらどうする。
家は、一度建てたら簡単にはやり直せない。
簡単に「面白いですね」と決められる話ではなかった。
ペンライトで、何度も光を当てた。
担当者には、何度も現地を確認してもらった。
隣家との距離。
建物の高さ。
窓の位置。
太陽の高さや、光が入ってくる角度。
一つひとつ確認してもらった。
そして、模型もつくってもらった。
私たちは、その模型にペンライトを当てた。

南側から。
上から。
角度を変えて、また当てる。
何度も、何度もやった。
南側の大きな窓から入った光が、吹き抜けを通ってどこまで届くのか。
北側の高い壁にどう反射するのか。
中庭側は本当に暗くならないのか。
模型をのぞき込みながら確認した。
それでも、最後まで不安が完全になくなったわけではない。
でも、この担当者だけは考えを変えなかった。
他のことについては、私たちの希望をかなり柔軟に聞いてくれた。
なのに、この配置だけは譲らなかった。
その姿を見て、
そこまで言うのなら、信じてみよう。
そう思った。
そして、家が建った。
実際に暮らしてみると、心配していた暗さはなかった。
南側から入った光が、吹き抜けを通る。
時間とともに光の位置が変わり、北側にも光が回る。
そして北側を大きく空けたことで、中庭ができた。
家の中にいながら、外を感じられる。
あれだけ不安だった計画が、結果として、わが家で一番好きな空間をつくってくれた。
カーテンを閉めなくていい家。
もうひとつ、こだわったことがある。
せっかく大きな窓をつくって空が見えても、外からの視線が気になって、一日中カーテンを閉めていたら意味がない。
だから、窓の位置だけではなく、
隣家との距離。
建物の高さ。
壁の高さ。
外からどう見えるのか。
そこまで考えて設計した。
結果として、わが家はカーテンを閉めなくても、ほとんど人の目が気にならない。
これは想像していた以上に気持ちがいい。
ソファに仰向けになる。
パッと視界が広がる。
その向こうには青い空がある。
雲がゆっくり流れていく。
鳥が横切る。
飛行機が飛んでいくこともある。
天井を見ているのとは、まったく違う。
あの開放感は格別だ。

娘のためにつくったはずなのに、気がつけば私たち家族も同じように空を眺めている。
娘のために考えたことが、家族の心地よさになった。
もし単純に、
「格好いい吹き抜けが欲しい」
というところから家づくりを始めていたら、ここまで考えていなかったと思う。
娘が仰向けになったとき、何が見えるのか。
どうすれば光を感じられるのか。
どうすれば空が見えるのか。
娘のことを最優先にして、試行錯誤した。
そのために窓の位置を考え、光の入り方を考え、外からの視線まで考えた。
その結果できた場所が、今では私たち家族にとっても、家の中で一番気持ちのいい場所になった。
前の記事で書いた玄関もそうだった。
娘のために考えたことが、結果として家族みんなにとっての暮らしやすさになった。
吹き抜けも同じだった。
娘のために考えたことが、家族みんなの暮らしを豊かにしてくれた。
これは、家を建てたときには気づかなかったことだ。
暮らしてみて、初めてわかった。
そして、人の目を気にしなくていいというのは、本当に最高だ。
私は風呂から上がると、パンツ一丁で普通に家の中をウロウロしている(笑)。
そんなことまで想定して設計したわけではない。
でも、これもこの家の恩恵ということにしておこう。
娘に、天井ではなく空を見せたかった。
そのためにつくった吹き抜けの下で、
今は私たちも空を見ている。


