障害のある子どもと暮らすバリアフリー住宅|車椅子の娘のために考えた間取りと家づくり

車椅子の娘との暮らしを考えて建てたバリアフリー住宅のアプローチ
目次

介護しやすい家をつくった。変わったのは、家族の気持ちだった。

障害のある子どもと暮らす家を建てる。

私たちが家づくりを始めたとき、欲しかったのは単なる「バリアフリー住宅」ではありませんでした。

娘は車椅子で生活しています。

車から降ろす。
玄関を通る。
リビングへ行く。
着替える。
お風呂に入れる。
ベッドへ移す。

一つひとつは小さな動作です。

でも、それを毎日、何年も繰り返していると、ほんの数センチの段差や、少し狭い通路、一枚のドアが大きな負担になることがあります。

だから私たちは考えました。

介護を頑張り続けるのではなく、頑張らなくても暮らせる家にできないだろうか。

住宅会社は30社ほど回りました。

そして最終的に、駐車場から玄関、リビング、寝室、浴室まで、娘と車椅子の動きを中心に考えた家を建てました。

実際に暮らしてみると、

「これは、本当にやってよかった」

と思うことがあります。

一方で、

「ここは、もう少し考えておけばよかった」

と思うこともあります。

この記事では建築の専門家としてではなく、障害のある娘と長く暮らし、実際にバリアフリー住宅を建てた父親として、私たちが間取りや動線をどう考えたのかを書いてみようと思います。

これから障害のあるお子さんとの家づくりを考えている方に、一つでも参考になることがあればうれしいです。

障害のある子どもとの暮らしから始まった家づくり

家を建てる前から、私たち家族には介護のある日常がありました。

だから家づくりで最初に考えたのは、

「広いリビングが欲しい」

でも、

「おしゃれな家にしたい」

でもありませんでした。

どうすれば、娘との毎日の暮らしを少し楽にできるだろう。

そこが出発点でした。

介護は、一度の大きな作業が大変なのではありません。

車から降ろす。
車椅子に乗せる。
玄関を通る。
部屋へ移動する。
着替える。
お風呂に入れる。
ベッドへ移す。

小さな動作の繰り返しです。

一回なら何でもないことでも、それが毎日続きます。

ならば、人が家に合わせるのではなく、

家のほうを、私たち家族の暮らしに合わせればいい。

そう考えるようになりました。

障害のある子どもとの暮らしを考えて設計したバリアフリー住宅


「家に人を合わせるのではなく、家を私たちの暮らしに合わせる」。そこから家づくりが始まりました。

住宅会社を30社ほど回って気づいたこと

家づくりを始めてから、私は30社ほどの住宅会社と話をしました。

皆さん、本当に親身になって話を聞いてくれました。

「段差をなくしましょう」

「手すりを付けましょう」

「廊下を広くしましょう」

もちろん、どれも大切です。

ただ、話を進めていくうちに、少しずつズレを感じることもありました。

私たちが知りたかったのは、

「一般的なバリアフリー住宅の正解」ではなく、「娘との暮らしにとっての正解」

だったからです。

同じ車椅子でも、自分で操作できる人と介助が必要な人では、必要なスペースは違います。

身体の状態も違う。

移乗の方法も違う。

介護する人の体格も違う。

そして、家族の暮らし方も違います。

家づくりを通して私は、

バリアフリー住宅には、誰にでも当てはまる一つの正解はない

と感じるようになりました。

間取りで大切にしたのは「車椅子が通れるか」より「どう暮らすか」

バリアフリー住宅を調べると、通路幅やスロープ、手すりなど、さまざまな寸法や設備の情報が出てきます。

もちろん、それらは大切です。

でも私たちが家づくりで一番大切にしたのは、数字だけではありませんでした。

娘が朝起きてから夜眠るまで、どう動くのか。

それを図面の上で何度も考えました。

寝室からリビングへ。

リビングから外へ。

帰宅したら玄関からリビングへ。

そして、脱衣所、浴室、寝室へ。

部屋を一つずつ考えるのではなく、

一日の生活を一本の動線として考える。

実際に暮らし始めてからも、これはやってよかったと思っています。

やってよかった① 駐車場から室内まで段差をなくした

一番やってよかったと思っているのが、駐車場から家の中までの動線です。

車で帰宅して娘を降ろし、玄関を通ってリビングへ入る。

ここは毎日のように使います。

もし、その途中に段差があれば、そのたびに介助が必要になります。

私たちの家では、駐車場から玄関、そして室内まで、できるだけ車椅子のままスムーズに移動できるようにしました。


駐車場から玄関へ。毎日通る場所だからこそ、段差のない動線を最優先にしました。

実際に暮らしてみると、この効果は想像以上でした。

数センチの段差をなくす。

それだけのことに見えるかもしれません。

でも、毎日繰り返す場所だからこそ、その数センチが大きいのです。

バリアフリー住宅を考えるなら、私はまず室内の設備より先に、

「車を降りてから家の中に入るまで」

を考えてみてほしいと思います。

雨の日。

荷物が多い日。

娘の体調が悪い日。

介護する私たちが疲れている日。

そんな日まで想像すると、玄関までの動線の大切さが見えてきます。


玄関は「家の入口」ではなく、毎日の介護動線の一部として考えました。

やってよかった② リビング・寝室・浴室を一本の動線でつないだ

私たちは、部屋単体の広さよりも生活動線を重視しました。

玄関。

リビング。

寝室。

脱衣所。

浴室。

それぞれを別々に考えるのではなく、

娘が一日をどう移動するか

という視点から間取りを考えました。

介護では「移動する回数」と「移動する距離」が、そのまま家族の負担につながることがあります。

車椅子を押す。

方向転換する。

ドアを開ける。

身体を支える。

移乗する。

だから、

できるだけ短く。
できるだけ曲がらず。
できるだけ段差なく。


部屋を別々に考えるのではなく、「一日の移動」を一本の線として考えました。

もしこれから間取りを考えるなら、図面をただ眺めるのではなく、

朝起きてから夜眠るまで、指で車椅子を動かすように図面の上をたどってみる。

ぜひ一度やってみてください。

意外なところで、

「ここ、毎日大変かもしれない」

という場所が見つかるかもしれません。

やってよかった③ 開き戸より引き戸を多くした

車椅子で生活してみると、ドアの開け閉めも意外な負担になります。

開き戸の場合、一度後ろへ下がって扉を開け、また前へ進まなければならないことがあります。

介助する側にとっても、開いた扉が動線をふさいでしまうことがあります。

そこで私たちは、できるだけ引き戸を採用しました。

これは正解だったと思っています。

引き戸なら開けたままでも邪魔になりにくく、介助するときの動きもシンプルです。

バリアフリー住宅というと、スロープや手すりなど大きな設備に目が向きがちです。

でも実際の生活では、

毎日何度も使う小さなものほど、暮らしやすさを左右する。

ドアはその一つでした。

車椅子で移動しやすい引き戸を採用したバリアフリー住宅の寝室


大きな設備より、毎日何度も使うドアの方が暮らしやすさを左右することもあります。

やってよかった④ 浴室だけでなく「介助する場所」として脱衣所を考えた

介護のある家づくりで、私が特に大切だと思う場所があります。

浴室と脱衣所です。

入浴には、

服を脱ぐ。
身体を支える。
移乗する。
身体を洗う。
浴槽へ入る。
身体を拭く。
服を着る。

たくさんの動作があります。

だから私たちは、浴室だけではなく脱衣所を含めてスペースを考えました。

車椅子が入れる。

それだけでは足りません。

介助する人が横に立てるか。

身体を支えられるか。

方向転換できるか。

着替えるときに無理な姿勢にならないか。


「車椅子が入れるか」だけでなく、「介助する人が一緒に動けるか」を考えました。

実際に暮らしてみて感じるのは、

「車椅子のためのスペース」と同じくらい、「介助する人が動ける余白」が大切

だということです。

やってよかった⑤ 「介護の家」に見えない家にした

これは機能とは少し違う話です。

私は家全体を、いかにも

「介護のためにつくられた家」

にはしたくありませんでした。

もちろん、安全性や使いやすさは最優先です。

でも同時に、大切にしたかったことがあります。

家族みんなが「この家が好き」と思えること。

素材。

色。

光。

窓の位置。

吹き抜け。

外からの視線。

室内から見える空。

機能だけではなく、そういうものもかなり考えました。

バリアフリーとインテリアを両立した明るいリビングと吹き抜け

表示:横幅いっぱい・大きく

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バリアフリーとインテリアを両立した明るいリビングと吹き抜け

キャプション:
介護しやすいことと、家族みんなが「好き」と思える家であること。その両方を諦めたくありませんでした。

介護のための機能があっても、それが家の主役になる必要はない。

暮らしの中に自然に溶け込ませればいい。

介護しやすい家と、心地よい家は両立できる。

これは今でも、私たちの家づくりで大切にしてよかったと思っていることです。

車椅子の娘のための家づくりで「もっと考えてもよかった」と思うこと

かなり考えて建てた家ですが、すべてが完璧だったわけではありません。

実際に暮らして初めて気づくこともありました。

その一つが、

「今の身体の状態」だけを基準にしすぎないこと。

子どもは成長します。

身体の状態が変わることもあります。

使う車椅子や介護機器が変わる可能性もあります。

そして、忘れてはいけないのが、

介護する親も年齢を重ねていく

ということです。

家を建てたときには簡単にできた介助が、10年後も同じようにできるとは限りません。

だから今なら、

「今、使いやすいか」

に加えて、

「5年後、10年後にも、この動線で大丈夫だろうか」

という視点を、もっと強く持つと思います。

「車椅子が通れる広さ」だけでは足りない

家づくりのとき、

「ここは車椅子で通れますか?」

という確認はすると思います。

でも、実際の介護では車椅子だけが通るわけではありません。

その横や後ろには、介助する人がいます。

車椅子だけなら通れる。

でも、人が横に立つと狭い。

方向転換はできるけれど、介助者が入ると動きにくい。

これは図面を見ているだけでは気づきにくいところです。

これからバリアフリー住宅を建てるなら、設計者に、

「車椅子は通れますか?」

だけではなく、

「ここで私が横に立って介助できますか?」

と聞いてみてください。

間取りの見え方が変わると思います。

将来に備えるなら、設備より「変えられる余白」を残す

家を建てるとき、将来のすべてを予測することはできません。

だから、最初から必要になりそうな設備を全部付けておくことが正解とも限らないと思っています。

むしろ大切なのは、

あとから変えられること。

将来、手すりを付けられる。

介護機器を置ける。

家具の位置を変えられる。

身体の状態が変わったら、部屋の使い方を変えられる。

家を完成させすぎず、暮らしの変化を受け入れられる余白を残す。

長く暮らすバリアフリー住宅には、そんな考え方も必要だと思います。

旗竿地でも、車椅子で暮らせる家はつくれた

私たちが家を建てた土地は、いわゆる旗竿地です。

一般的には、決して家づくりが簡単な土地ではないかもしれません。

まして車椅子で暮らす家となれば、

「この土地で大丈夫だろうか」

と思われるかもしれません。

でも私たちは、土地の条件に暮らしを合わせるのではなく、

この土地で、どうすれば娘との生活動線をつくれるか

を考えました。

旗竿地を活用してつくった車椅子対応バリアフリー住宅へのアプローチ


土地の条件に暮らしを合わせるのではなく、この土地でどう生活動線をつくるかを考えました。

駐車位置。

車から降ろす場所。

玄関までの距離。

勾配。

雨の日の乗り降り。

車椅子の方向転換。

そして、家に入ってからの動線。

振り返ってみると、バリアフリー住宅の設計は、間取りを描き始めてからではなく、

土地を選ぶ段階から始まっていた

のだと思います。

バリアフリー住宅を建てる前に、私ならこの7つを確認する

もし今、もう一度家を建てるなら。

図面を見ながら、最低でも次の7つを確認します。

✓ 車を降りてから寝室まで、車椅子で無理なく移動できるか

✓ その途中に小さな段差や邪魔になる扉はないか

✓ 車椅子だけでなく、介助する人が横に立てるか

✓ トイレ・脱衣所・浴室で方向転換や移乗ができるか

✓ そのドアは本当に開き戸でいいのか

✓ 身体の状態や介護機器が変わっても対応できるか

✓ 家族みんなが「この家が好き」と思えるか

私は最後の7番も、とても大切だと思っています。

障害のある子どもが暮らしやすいこと。

介護する家族が楽になること。

そして、家族みんなにとって心地よいこと。

どれか一つを諦める必要はありません。

バリアフリー住宅は、障害のある娘だけのための家ではなかった

家を建てる前、私はバリアフリー住宅を、

娘が暮らしやすくするための家

だと思っていました。

でも、実際に暮らしてみると少し違いました。

段差がない。

移動しやすい。

お風呂に入れやすい。

車椅子を動かしやすい。

一つひとつは小さなことです。

でも、その小さな負担が減ることで、介護する家族の気持ちにも少し余裕が生まれます。

「大変だから今日はやめておこう」

が少し減る。

その分、一緒に過ごせる時間が増える。

家族の会話が増える。

家は、介護そのものをなくしてはくれません。

でも、

介護によって失われていた家族の時間を、少し取り戻してくれることはある。

私はそう思っています。

障害のある娘と家族が暮らすバリアフリー住宅の日常


家を変えても介護はなくならない。それでも、家族の時間は少し変わりました。

これから障害のある子どもとの家づくりを始める方へ

住宅会社から提案された図面を見るとき、

「バリアフリーになっていますか?」

だけを確認しないでほしいと思います。

その図面の中で、一度生活してみてください。

朝起きる。

着替える。

リビングへ行く。

外出する。

車に乗る。

帰ってくる。

お風呂に入る。

ベッドへ戻る。

雨の日も想像してみる。

体調の悪い日も想像してみる。

そして、5年後、10年後も少しだけ想像してみる。

すると、図面上ではほんの数センチだったものや、一枚のドアの位置が、まったく違って見えてくるかもしれません。

私たちも、完璧な家を建てられたわけではありません。

それでも、この家を建ててよかったと思っています。

なぜなら、私たちが本当につくりたかったのは、

「バリアフリー住宅」

ではなかったからです。

つくりたかったのは、

娘も、妻も、私も、家族みんなが少し楽に暮らせる家。

そして、

介護があっても、家族が家族らしくいられる場所。

だったのだと思います。

家を変えても、介護がなくなるわけではありません。

それでも、

介護しやすい家をつくったら、家族の気持ちは少し変わりました。

それが、この家で実際に暮らしてきた私の、一番大きな答えです。

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この記事を書いた人

53歳、転勤族のサラリーマンです。
障害のある娘との暮らしをきっかけに、
43歳で家を建てました。

介護、子育て、仕事、家づくり。
いろいろあったけれど、振り返れば、
それも全部わが家の時間でした。

今は、妻との旅や車、住まいを楽しみながら、
これまでのこと、そしてこれからのことを
書いています。

いろいろあった。だからこそ、今を生きる。

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