図面の中には、暮らしはなかった。
家を建てるとき、私たちはかなり考えたつもりでした。
車椅子でどうやって玄関まで入るか。
玄関からリビングへどう移動するか。
ベッドルームはどこにするか。
お風呂にはどうやって入るか。
図面を見ながら、何度も娘の動きを想像しました。
実際に暮らしてみると、「これはやってよかった」と思うことがたくさんあります。
でも一方で、
「これは、なくてもよかったな」
「ここは、もう少し考えればよかった」
と思うこともありました。
家は、図面の中で暮らすわけではありません。
家具が入り、物が増え、人が動き、そこに車椅子が加わる。
実際に暮らしてみて初めてわかったことがあります。
これからバリアフリー住宅を考える方に、私たちの「よかったこと」と「後悔したこと」の両方を書いてみようと思います。
車椅子の娘との暮らしを考えて、あえて旗竿地を選んだ
土地探しで、私たちが選んだのは「旗竿地」でした。
旗竿地とは、道路に接する間口が狭く、そこから細長い通路が延び、その奥に家を建てる土地です。
一般的には、必ずしも人気の高い土地ではないと思います。
でも、私たちにとっては大きなメリットがありました。
それが、道路から玄関までの距離です。
車椅子で玄関まで移動するには、できるだけ急な傾斜を避けたい。
道路から玄関までの距離が短ければ、高低差を短い距離で解消しなければならず、どうしても傾斜が急になります。
旗竿地なら、細長いアプローチを使って、玄関までゆるやかに上がっていくことができます。
私たちはそこに車を2台停め、その横に車椅子が通れるスペースを確保しました。
一般的にはデメリットと考えられることもある土地の形が、私たち家族にとってはメリットになったのです。

旗竿地の長いアプローチを、玄関までのゆるやかな動線として活用しました。
家づくりをしていて感じたのは、世間一般の「いい土地」が、自分たち家族にとっても「いい土地」とは限らないということでした。
実際に暮らして「やってよかった」と思うバリアフリー設計
家の中では、娘と介助する家族ができるだけ動きやすいことを優先しました。
玄関からリビングまでは、扉を設けず、段差もありません。

リビングの横にはベッドルーム。

脱衣スペースとバスルームも広めに取り、浴室には湯船への昇降機も設置しました。

介護をしながら家の中を動いてみると、
段差がないこと。
移動距離が短いこと。
そして、人と車椅子が動ける余白があること。
その一つひとつが、毎日の負担を少しずつ減らしてくれました。
特別な設備以上に、「毎日繰り返す動作が少し楽になる」。
実際に暮らしてみると、その積み重ねの大きさを感じました。
後悔したこと① 補助設備は「つければ安心」ではなかった
娘を車椅子からベッドへ移すために、移乗を補助するアームも設置しました。

家を建てるときには、
「きっと必要になる」
と思っていた設備です。
ところが実際に生活してみると、ほとんど使いませんでした。
結局、しばらくして取り外しました。
バリアフリー住宅を考えていると、どうしても「どんな福祉設備をつけるか」に目が向きます。
私たちもそうでした。
でも、設備は多ければ多いほど暮らしやすくなるわけではありません。
大切なのは、
実際に、家族がどんな方法で介助しているのか。
そして、その設備を本当に毎日使うのか。
今なら、設備ありきではなく、普段の介助の仕方から逆算して考えると思います。
後悔したこと② 家具を置いたら、図面とは違って見えた
もう一つは、家具です。
私たちはソファやテーブルなど、自分たちが気に入ったものを優先して選びました。
もちろん、図面上では置けることを確認しています。
ところが、実際に家具を入れてみると違いました。

家具そのものは置ける。
でも、その横を車椅子が通る。
向きを変える。
介助する人が立つ。
家族もその横を歩く。
そうすると、図面で見ていた以上にスペースが必要でした。
「家具が置ける」と「暮らしやすい」は、同じではありませんでした。
特に車椅子のある暮らしでは、家具そのものの大きさ以上に、家具を置いたあとにどれだけ余白が残るかが大切でした。
これは設計図を眺めているだけでは、なかなか実感できなかったことです。
後悔したこと③ ダイニングテーブルをもっと大きくすればよかった
反対に、もっと大きくすればよかったと思っているものもあります。
ダイニングテーブルです。
ソファなどにはかなりこだわったのに、今振り返ると、もっとスペースを使うべきだったのはダイニングだったと思います。
娘の車椅子をテーブルの横につける。
家族がそこで食事をする。
そして今では、PCを開いて作業をすることもあります。

暮らしてみて気づいたのですが、ダイニングテーブルは、食事をするだけの場所ではありませんでした。
家族が集まり、何かを書き、PCを開き、ときには話をする。
生活の中心になる場所でした。
だから、テーブルそのものをもう少し大きくして、さらに車椅子を横につけても余裕があるスペースを取っておけばよかった。
家を建てるときには、そこまで想像できていませんでした。
広い家にすることと、余白のある家にすることは違う。
これは、実際に暮らしてみてわかったことです。
図面を見るときは、「家具を置いた後」を想像した方がいい
これから車椅子で暮らす家を建てる方に、一つ伝えるとしたら、私はこれを伝えたいです。
図面を見るとき、
「車椅子がここを通れるか」
だけではなく、
「実際の家具を置いたあとでも、車椅子がここを通れるか」
まで考えてみてください。
できれば、置きたいソファやダイニングテーブルなどの実寸を図面に落としてみる。
そして、
車椅子はどこで方向を変えるのか。
テーブルにはどう横づけするのか。
介助する人はどこに立つのか。
その横を、もう一人が通れるのか。
そこまで想像してみる。
私たちも、図面ではかなり考えたつもりでした。
それでも、実際の暮らしは図面通りにはなりませんでした。
そして、家族の暮らし方も変わった
この家で介護生活を続ける中、娘が20歳を超えたあたりから、夫婦で施設入所について話し合うようになりました。
私たちが、いつまでも介護できるわけではありません。
いつか年を取り、今と同じようには見てあげられなくなる。
県外も視野に入れて探していた中、幸い近所に施設ができ、娘が入所できることになりました。
顔を見に行ける距離。
それは大きな安心でした。
でも——すごく寂しかったです。
そして同時に、少しホッとした気持ちもありました。
寂しい。
でも、安心する。
相反するような二つの気持ちが、同時にありました。
家を建てたときには、娘がこの家を離れて暮らすことになるとは考えていませんでした。
家族の暮らし方は、ずっと同じではない。
それもまた、住み続けてわかったことでした。
娘のためにつくった家が、今は私たち夫婦の暮らしやすい家になった
娘が施設で暮らすようになってから、使わなくなった設備は外しました。
浴室の昇降機も、今はありません。
でも、家そのもののバリアフリー設計は残っています。
段差がない。
動線が広い。
玄関からリビングへ入りやすい。
それは介護をしなくなった今でも、とても暮らしやすいのです。
この家は、娘のためにつくった家でした。
でも今は、私たち夫婦にとっても暮らしやすい家になっています。
そして、私たち自身もこれから年を重ねていきます。
いつか、この段差のない家や、ゆるやかなアプローチ、広めにつくった動線に、今度は私たち自身が助けられる日が来るのかもしれません。
家を建てたときには、そこまで考えていませんでした。
家族の形は、変わっていきます。
必要な設備も変わる。
暮らし方も変わる。
だから、バリアフリーは介護のためだけのものではない。
今も、10年先も、その先も、家族が自分たちらしく暮らせること。
実際にこの家で暮らしてきて、今はそれが本当の意味でのバリアフリーなのではないかと思っています。
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間取りや動線、家づくりで考えたことについては、こちらの記事にまとめています。

