家を建てようと決めてから、土地探しが始まった。
条件はいくつかあった。
娘のことを考えて、福祉の条件がいい地域であること。
予算に収まること。
車での出入りがしやすいこと。
そして、毎日の生活を考えると、スーパーが近いことも大事だった。
こうして書くと、ごく普通の条件に見える。
でも、実際に土地を探してみると、全部を満たす土地はなかなか見つからなかった。
予算が合えば場所が合わない。
場所がよければ、車の出入りがしにくい。
「ここはいいな」と思う土地は、やっぱり高い。
そんなことを繰り返していた。
「これは、いいかもしれない」
ある時、ひとつの土地が候補に上がった。
いわゆる「旗竿地」だった。
道路に接している間口から、細長い通路が奥へ伸び、その先に家を建てるスペースがある。
上から見ると、旗と竿のような形をしているから、旗竿地と呼ばれている。
一般的には、整形地に比べると少し癖のある土地だと思う。
でも、この土地は「竿」の部分がかなり広かった。
駐車スペースとして考えれば、最大で3台ほど停められそうだった。
そして奥には、家を建てるためのまとまったスペースがある。
妻と二人で見た時、
「これは、いいかもしれない」
と思った。
妻も同じ感覚だった。
ただし、ひとつ問題があった。
予算はオーバーしていた。
決して、「安い旗竿地だったから決めた」という話ではない。
むしろ逆だった。
条件はかなり良かったけれど、その分、予算的には迷う土地だった。

打ち合わせ中に、ふと思った
この土地をどう使うか。
設計士さんと打ち合わせをしていた時だった。
娘は車椅子を使う。
だから玄関まで、できるだけ無理のない傾斜で上がれるようにしたかった。
普通なら、敷地のどこかにスロープをつくることを考える。
ただ、十分な長さを取って、車椅子で無理なく上がれる勾配をつくれるのか。
その時点では、設計士さんにもまだ分からなかった。
図面を見ながら話していて、私はふと思った。
「この長い通路そのものを、スロープにしたらいいんじゃない?」
道路から家まで、これだけ距離がある。
だったら、その距離を使って少しずつ高さを上げていけばいい。
短い距離で高さを上げるから急になる。
長い距離を使えば、傾斜をずっと緩やかにできる。
思いついた瞬間、
「これ、いけるんじゃない?」
と思った。
我ながら、ナイスアイデアだったと思う(笑)。
【写真②:道路から家まで伸びる昼のアプローチ】
「この土地にしよう」
もちろん、旗竿地にはデメリットもある。
この土地の場合、車は3台ほど停められるものの、すべて縦列になる。
奥の車を出そうと思えば、手前の車を動かさなければならない。
これが、暮らしてみると意外と面倒だった。
出す時も、入れる時も、
「ああ、先にこっちを動かさないと……」
となる。
3台停められるからといって、3台分の独立した駐車場があるのとは全然違う。
これは旗竿地を考えている人には、ちゃんと伝えておきたい。
それでも、私たちにとっては、それを上回るメリットがあった。
妻に、
「この長い通路、娘のスロープ代わりになると思う」
と話した。
妻も同意してくれた。
それが大きな後押しになった。
土地探しというのは、タイミングだと思う。
待っていれば、もっといい土地が出てくるかもしれない。
でも、出てこないかもしれない。
半年待っても、一年待っても、条件を全部満たす土地に出会える保証なんてない。
だったら、
「いい」と思った時が、その土地とのタイミングなのかもしれない。
そう思った。
予算は少しオーバーする。
それでも、この土地にしよう。
決めた。
本当に、スロープになった
そして家が完成した。
道路から玄関へ向かって、長いアプローチが続いている。
写真で見ると、ほとんど平らに見えるかもしれない。
でも実際には、道路側から家に向かって、ほんの少しずつ上がっている。
長い距離を使って、高低差を吸収している。
つまり、あの時思いついた通り、
旗竿地の「竿」が、そのまま大きなスロープになった。

これが、本当によかった。
娘を車から降ろす。
車椅子に乗せる。
そこから玄関まで、そのまま押していける。
急な坂ではないから、まったく苦にならない。
手を離したらすぐに車椅子が動いてしまうとか、慌ててストッパーをかけなければ危ないとか、そういう心配もない。
ゆっくり、そのまま玄関まで行ける。
散歩から帰ってきた時も同じだった。
道路から家まで、ゆっくり押して帰ってくる。
毎日のことだからこそ、この「楽々」が大きかった。
もうひとつ、思わぬメリットがあった
暮らしてみて分かったことが、もうひとつある。
防犯面だ。
道路から玄関まで距離がある。
通りから家の中が直接見えにくい。
知らない人が玄関まで来ようと思えば、長いアプローチを入ってこなければならない。
これは、実際に住んでみると思っていた以上に安心感があった。
もちろん、防犯設備そのものではない。
でも、道路と家の間に距離があることは、プライバシーという意味でもよかった。
夜になると、長いアプローチの照明がつく。
道路から奥の家まで、光が続いていく。

旗竿地だからこそ生まれた景色でもある。
今なら、旗竿地を選ぶか
もし今、もう一度土地を探すとしたらどうするか。
整形地で、車椅子で無理なく玄関まで行ける条件が整うなら、もちろん整形地でいいと思う。
わざわざ旗竿地を選ぶ必要はない。
でも、
「竿」の部分に十分な幅と長さがある旗竿地なら、私はまた候補に入れる。
駐車のしにくさはある。
土地の形にも制約がある。
だから、誰にでもおすすめできるわけではない。
でも私たちの家では、その「長い竿」が、
駐車スペースになり、
玄関までのアプローチになり、
娘のための緩やかなスロープになった。
土地のデメリットは、見方を変えればメリットになることがある。
家づくりをしている時、何度かそういう経験をした。
最初から「こういう家にしよう」と、全部決まっていたわけではない。
土地を見て、
家族の暮らしを考えて、
困っていることと、できることを組み合わせていく。
そうやって、少しずつ私たちの家になっていった。
あの打ち合わせで、
「この長い通路をスロープにしたらいいんじゃない?」
と思いつかなかったら。
もしかすると、この土地を選んでいなかったかもしれない。
そう考えると、
家づくりは、図面の中だけでするものではないのかもしれない。
そこで家族がどう暮らすのか。
それを想像するところから、家は少しずつできていく。
そしてこの土地が、
私たちの3年間の家づくりの、本当のスタートになった。
家づくりは、建物だけではなく、土地選びから始まっています。
「この土地で、本当に自分たちの暮らしがつくれるだろうか」
そんな段階から迷っている方にも、私の経験がお役に立てるかもしれません。

