エルグランドは、本当によく働いてくれた。
娘の車椅子を積んで、家族みんなでいろいろなところへ出かけた。
旅行へ行くときは、妻と運転を交代した。
私が運転を代わってもらったときには、後ろへ行って娘のそばで寝転んだりもした。
広い車内だったから、そんなことができた。
今思えば、
幸せな時間だったな。
車は単なる移動手段ではなく、家族で過ごすもうひとつの部屋のような存在だったのかもしれない。

家族でいろいろな場所へ出かけたエルグランド。車内の広さにもずいぶん助けられた。
そんなエルグランドを手放す話が、突然やってきた
私は昔から車が好きだった。
外車も何台か乗り継いできたけれど、なぜかメルセデス・ベンツには乗ったことがなかった。
ベンツの中で一度乗ってみたいと思っていたのが、
Gクラス、いわゆるゲレンデだった。
ある日、いつもお世話になっている整備工場の社長から連絡があった。
「Gクラスを手放す人がいるんですけど、買いませんか?」
その言葉を聞いた瞬間、
ちょっと心が動いた。
いや、かなり動いた。笑
そして頭に浮かんだ。
「介護仕様のGクラスって、いいかも。」
それまでそんな車を見たことはなかった。
でも、できないと決まったわけでもない。

長く活躍してくれたエルグランド。でも、このあと予想もしなかった車への乗り換え話がやってきた。
妻に言ったら、意外な反応だった
問題は妻だった。
エルグランドは使いやすい。
娘の車椅子も載せやすい。
家族で旅行するにも便利。
それをわざわざGクラスに替えたいと言ったら、
さすがに反対されるだろうと思った。
恐る恐る相談した。
ところが、
妻も、まんざらでもなかった。
そこから急に現実味が出てきた。
ただ、最大の問題がある。
そもそもGクラスに車椅子が載るのか。
「やったことないですね」
エルグランドを車椅子仕様に改造してくれた業者さんへ相談してみた。
Gクラスを車椅子仕様にできないか。
返ってきた答えは、
「やったことないですね」
だった。
そりゃそうだろうな。笑
それでも、一度車を持ってきてくださいという話になった。
実際にGクラスを見てもらい、寸法を測りながら検討してもらった。
そこで分かったのが、リアドアの問題だった。
Gクラスの後ろのドアは横開き。
そのままでは、ドアの開き幅がリフトに干渉してしまう。
そこでドアの開き方を調整。
そして車内に入るギリギリのサイズで、車椅子用リフトを取り付けた。
業者さんにも施工経験がなかった。
少なくとも私たちの周りでは見たことのない、
かなり珍しい車椅子仕様のGクラスが完成した。

リアドアの開き方を調整し、車内に収まるギリギリのサイズでリフトを設置した。
後ろから見ると、こんなことになる
スイッチを操作すると、収納されていたリフトが後ろへ展開する。
そして、そのまま地面まで降りてくる。

Gクラスのリアから展開する車椅子用リフト。見た目からは想像できないけれど、しっかり福祉車両になった。
実際に使う車椅子は、それなりに大きい。
リフトの上に乗せると、左右のタイヤとリフトの幅にはそれほど余裕がない。
まさにギリギリ。
でも、きちんと載せることができた。

実際に使っていた車椅子のサイズ感をもとに再現したイメージ。左右にはそれほど余裕がなかった。
この型のGクラスだったからできた
もう一つ重要だったのが、2列目シートだった。
娘を車椅子のまま載せるには、車内にスペースをつくらなければならない。
私のGクラスは、一つ前の世代。
この型は、2列目シートを前へ跳ね上げることができた。
これが大きかった。
2列目を跳ね上げ、その後ろに車椅子のスペースを確保する。
だから、この改造ができた。
ただし。
ここからが、使ってみなければ分からなかった話だ。
2列目シートを跳ね上げるのが、とにかく大変
このシート。
跳ね上げることはできる。
でも、
めちゃくちゃやりにくい。
「なんでレバーをこんなところにつけたんだろう」
と思うような位置にある。
毎回、
よいしょ。
こっちを引いて。
シートを持ち上げて。
……という感じになる。
エルグランドの便利さに慣れていただけに、
このあたりは、
「やっぱりGクラスだな」
と思った。笑

車椅子のスペースをつくるため、2列目シートを前へ跳ね上げる。この作業が思った以上に大変だった。
そして、もう一つ問題がある。
2列目を跳ね上げると、そのシートが運転席のすぐ後ろまで来る。
すると、
運転席のリクライニングが、ほぼ絶望的になる。
かなり姿勢よく運転することになる。
長距離では、
「もう少し倒したいなあ」
と思う。
でも倒れない。笑
こういうことは、カタログには書いていない。
実際に使った人間にしか分からないところだと思う。
便利さだけなら、エルグランドだったと思う
正直に言えば、
福祉車両としての使いやすさだけを比べたら、エルグランドの方がずっと合理的だったと思う。
車内は広い。
乗り降りもしやすい。
荷物も積める。
家族で旅行するには本当にいい車だった。
Gクラスは、そこまで便利ではない。
それでも私は、
この車にしてよかったと思っている。
介護がある生活では、
どうしても「必要かどうか」「便利かどうか」で物事を選ぶことが多くなる。
もちろん、それは大切だ。
でも、ときには、
「自分が好きだから」
という理由があってもいいと思う。
娘の車椅子を載せられる。
介護にも使える。
そのうえで、
自分が乗りたかった車にも乗る。
そんな選択肢があってもいい。
しばらく、このGクラスは手放さない
Gクラスを車椅子仕様にしてから、ずいぶん時間が経った。
不便なところもある。
2列目シートは相変わらず面倒だし、運転席は相変わらず姿勢がいい。笑
でも、
しばらく、この車を手放すつもりはない。
気に入っている。
では、次は何に乗りたいか。
最近ちょっと気になっているのは、
キャンピングカー。
車椅子で乗れて、そのまま家族で旅ができたら面白そうだな、と。
ただし、
妻に言ったら、
おそらく大反対されると思う。
まあ、
まずは恐る恐る聞いてみるところからだろう。笑
今を、生きる。

